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苦味の美味

このところ、夏のような日差しの日もあれば、
寒々と雨が降る日もある。

クール宅急便が届いた。
おかあさんからだ。

中身は、近所の山で採れた山菜。
数日前、おかあさんから予告の電話があった。

 春の山菜もそろそろ終わりの時季だが、
 ひと雨あった後に採れるわらびは柔らかくて旨い。
 明日は晴れるようだから、山へ行こうと思う。
 こごみやたらのめも採れるかも。
 たくさん採れたら、千里に送るよ。
 それと他には何が食べたい?

ジップロックに入ったそれらと保冷剤が
サンドイッチ状に重ねられ、
何重にも新聞紙でくるんで箱に入ってある。
おかあさんの思いも一緒に。

わらびは穂先を処理して灰でゆでてアクを抜いてある。
鉄鍋でゆでると色鮮やかに仕上がるのだという。
こごみもゆでてあり、和えごろものゴマだれが添えてある。
ふきのとうはきざんで甘辛く味噌で炒めてある。
たらのめも袴をキレイにはずしてあって、あとはころもをつけて揚げるだけ。
どれも、そのまま、もしくは、さっと火を通すだけで
食べられるようになっている。
それと地元の和菓子屋の私が好きなおまんじゅう。

おかあさん、と呼んでいるが、このひとは伯母。
私が9歳のころ。
祖父亡き後、祖母と一緒に伯父家族のところに身を寄せた。
ついこの前まで「おじちゃん」「おばちゃん」と呼んでいたひとを
「おとうさん」「おかあさん」とは呼べなかった。
(呼べるようになったのは、二十歳を過ぎてからだ)
伯母は亡き母の友人だった。
母を介して伯父と伯母は出逢った。

伯父にしてみれば、妻との縁を与えてくれた可愛い自慢の妹は
あろうことか、おかしな男に騙され孕まされ捨てられ死に至った
と怒りをすべて父に向かわせるほかなく、その反動で
残された私を全身全霊かけて、清く正しく美しく育て上げる
と誓ったらしい(後々、かなりのプレッシャーとなる)。
躾には異様に厳しく、一方で情にもろく、感情の起伏の激しい・・・
いや、感情豊かな人物だった。
(と言っておこう。育ててもらった恩がある)
私は向田邦子の作品が好きなのだが、
彼女のエッセイに登場する父親像と私の「おとうさん」は
時代背景が異なるにもかかわらず、重なる部分がありすぎて、
読むたび、ぷぷぷ、と笑ってしまうのだ。

伯母は、そんな伯父の弱さを補い支えあっていくにふさわしい相手だと
亡母が見込んで紹介したらしい。
(そんな亡母の「人を見る目」を、自分の男選びに
応用できなかったのが不思議。恋は魔物。)
伯母は、自分の子と同様に育てることを常に心がけてきたようだ。
社交家で、よく飲み、よく笑い、段取りがうまく、しかも毒舌家。
たくさん叱られたが、このひとを恨む気持ちになったことはない。

ドウセイドウメイと同姓同名の「兄」は実際は従兄弟で
学年は違うものの、半年ほどしか年は離れていないから
兄のことは「おにいちゃん」と当たり前に呼び、仲良く
時には派手な喧嘩をして育った。



わらびはおひたしに。硬い部分はお味噌汁に。
こごみは、ゴマで和えて片口の器にこんもりとよそう。
ふきのとうの味噌は、今日はそのまま食卓に。明日は田楽にしよう。
たらのめは、時間がないので、これもまた明日、天ぷらに。

「おばあちゃんが送ってくれた山菜だよ」と
子ども達を呼ぶ。
食卓を整え「いただきます」。
早速、わらびを口にする。
あれ?ちょっと茹ですぎてるな~、おかあさんとしたことが。
いつものシャキシャキ感がない。
こっちのこごみもだ。軟らかすぎる。

・・・ああ、そうか。
今、実家では、この歯ざわりがスタンダードなのだ。
おとうさんもおかあさんも、年をとったのだ。
と思ったら、やけにホロ苦く感じた山菜の夕餉だった。
by senriko | 2005-05-26 19:31
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